真空管オーバードライブAMP 改良版  < OD-V1A >

ACアダプターを使用する真空管エフェクターです。
従来の真空管AMPは高電圧で使用するものが一般的でしたが今回は電源電圧が12Vですのでどこを触ってもシビレません。
OD-V1を見直し、少し回路を変えましたが、基本的な動作は同じです。



電源電圧        12V
増幅率         130倍
入力Z          1Mohm
出力Z          3.9Kohm
残留ノイズ       0.1mV (入力ショート、 DIST VR中間)

OD-V1との変更点はFETにソース抵抗を付けたのと、DRIVE VRを外して真空管のカソードにDIST VRを付けた所です。
FETはNECの2SK68Aに変更しました。 FETの種類によっては利得のあり過ぎるものや、反対に少な過ぎる物がありますので数種類の中からこれに決めました。
FETの出カ側に付いている0.1uFのコンデンサーは0.047uF〜0.22uF位まで変化させても良いと思います、使用する機器の相性もありますから音を出しながら調整して下さい、ここに付いているコンデンサーは信号が通りますから良質の物を使用して下さい。

12AU7 1pinのプレート抵抗47kΩは22kΩ位まで抵抗値を下げても増幅度は大きく変わりませんが歪み具合が少し変わります。
12AU7 8pinのカソードにVRをつけましたので、信号の上下どちら側でもクリップさせることが出来ます。
真空管は12AU7のほかに12AX7や12AT7も使用可能です、また電源に余裕があれば12BH7Aも使えると思います。 球を変えると歪み方が変わります。

部品リスト


使用部品
抵抗は金属皮膜(金皮)1/4W型を使います、コンデンサーはフィルムタイプが良いと思います、耐圧は25V以上あればOKです。 ソースやカソードのバイパスコンデンサー47uFは電解でもタンタルでもOSコンデンサーでもOKです、耐圧は16Vで十分です。 電源の三端子レギュレーターの所に付ける100uFの電解コンデンサーは50V耐圧の方が良いでしょう。
DIST VRはB型を使用して下さい、LEVEL VRはA型、無ければB型でもOKです。
真空管ソケットはモールドでもタイト製でもOKです、ソケットを取り付けるアルミ板は1mmの厚さの物を適当な大きさに切り、穴あけ折り曲げをして下さい。
プリント基板はサンハヤトの”ICB-86G”を半分に切って使いました。

LED回路の2SK-30A-GRはIdssが5mA〜6mA位の物にして下さい、(2SK-30A-BLの方が良いかもしれません) Idssが少ないとLEDが上手く発光しません。
フットスイッチは3PDT(9pin)の物にすればLEDを点灯させている回路の2SK-30AGRなどはいらなくなりますから配線もすっきりします、またスイッチのセンターpinをLEDの切り替えに使えばシールドの役目もして一石二鳥です。 こちらのスイッチを薦めます。


電源
トランス型のACアダプターは出力電圧をテスターで測ったとき、直流15V〜16V位出ている物が必要です、また電流容量は300mA以上ある物を使用してください、12AU7のヒーターだけで150mA流れます。
このAMPに三端子レギュレーターを使った理由は、ヒーター電圧の安定化とリップルを除去してきれいで安定した電圧をFETや真空管に供給する為です。
12AU7の正規のヒーター電圧は12.6Vですが少し低い12Vでも大丈夫です、どうしても12.6Vにしたいと言うのでしたら、レギュレーター 7812のグランド側にシリコンダイオードを1本つけて、電圧を0.6V上げてください。
三端子レギュレーター 7812はシャシーに取り付けて放熱してください。


真空管を低電圧で動作させるメリットは  低電圧と高電圧を比較する
従来、真空管は高い電圧で動作させるのが普通でした。真空管の性質から低い電圧では低歪みにはなりませんから、HiFi AMP等では全く使用されませんでした。 低電圧では歪みが多くなり、許容入力も小さくなり、小さな入力信号でもすぐにクリップしてしまいます、これではステレオなどには使えません。しかしギター用のエフェクターは別です、クリップ(オーバードライブ状態)を作りたいのですから、許容入力が小さい、最大出力が小さいと言うのは好都合です。

しかし欠点が無いわけではありません、電源電圧が低いと高い利得は望めませんから、必要な利得を得るには増幅段数を多くしなければなりません、またスペース的にも制限がありますからたくさんの真空管を使うと言うわけにも行きません。

OD-V1Aでは増幅率を130倍(FETで13倍、真空管で10倍)にしています、クリッピング出カ電圧は約2Vですから、入力電圧が15mVの時にクリップが始まります、しかしカソードにVRを付けて動作点を可変していますからもうすこし少ない入力電圧でも歪みはじめます。 この増幅率は使用するピックアップ(PU)の出力電圧で決めれば良いのですが、PUやギターを変えるたびに増幅率を変えるわけにも行きませんので、適当と思われる値にしておきます。 本機はPUの出カ電圧が20mV〜40mV位の物を想定して増幅率を決めました。

今度はPUの出カ電圧が50mV位ある時はどうでしょうか、クリッピング出カは2Vですから、50mVX40倍=2Vで40倍〜50倍増幅させれば良いことになります。 電圧配分はFETで4〜5倍、真空管で10倍増幅させます。 PUの出カ電圧が100mVある時は、20倍〜30倍(FETで2〜3倍、真空管で10倍)増幅させればOKです。 FETで2〜5倍増幅させるならば2SK-30AGRが使用できます。
(本機のクリッピング出カ電圧(2V)は12AU7 8pinの所の出カ電圧で、OUT側には20KΩと5KΩVRで電圧を落としていますので、出カ電圧はVR最大で400〜500mVになります)

それでは真空管に掛ける電圧が150V〜250V位の時はどうでしょうか、プレートに高電圧が掛かっていますから、許容入力も出力電圧も大きくなります、(クリップしにくくなる) 出力電圧は数十ボルトに達します。仮にクリッピング出カ電圧が20Vとしますと、入力電圧15mV、増幅率を800倍にしても、出力電圧は12Vですからまだ歪みません、15mVの入力で歪み始めるようにするには1300倍以上増幅しなければなりません、1300倍の増幅は難しくはありませんが、ノイズ等には弱くなります、ローノイズに仕上げるにはそれなりのノウハウが必要です。 (PUの出カ電圧が100mVある時は、200倍〜250倍増幅すれば良いことになります)
また出力電圧が20Vというのは大き過ぎます、抵抗などのアッテネーターで電圧を1/20位に下げなければなりません、VRだけの調整では、左に絞りきったあたりで使用しなければなりませんから非常に使いにくくなります。

次に電源回路を比べて見ますと、高電圧の電源を作るのには労力も費用もスペースも沢山掛かります、高電圧のトランスが必要です、高耐圧の電解コンデンサーやカップリング コンデンサーが要ります、ヒーターも直流点火にしなければなりません。 これらが低電圧(12V位)のエフェクターならAC-DCアダプターが一個あれば電源全てがまかなえます。

この様に低電圧と高電圧とを比較した場合、エフェクターを製作する時には、低電圧動作の方が作り易いことがわかります、但し音質はどちらが優れているかは解かりません。 高電圧でも音の悪いAMPはあります。

パワーAMP(出力管)で歪ませる場合は
今度はパワーAMPの出力管で歪ませる(オーバードライブ)時は、プリAMPの増幅率はどれ位にしたら良いのでしょうか。 最大出力が50WのAMPの場合8Ωのスピーカーに掛かる電圧は20Vです、このAMPの入力感度を1V(1Vでフルパワーになる)とします。 PUの出力電圧が仮に15mVとしますと、プリAMPで67倍強増幅させれば良いことになります。 15mVx67倍x20倍=20V プリ、パワーAMP合計で1340倍以上増幅すれば、出力管が歪みはじめるわけです。

それでは出力3WのパワーAMPの時はどうでしょうか。 3W、8Ωの時の出力電圧は約5Vです、入力感度を同じく1V、PUの出力電圧を15mVとしますと、これもプリAMPで67倍増幅すれば出力管が歪みはじめます。パワーAMPの入力感度がもう10倍良くて0.1Vでフルパワーになるなら、プリAMPでは6.7倍以上の増幅率があれば良いわけです。 合計では335倍以上増幅すればOKです。

同じく3WのパワーAMPで入力感度が1V、PUの出カ電圧が100mVある時は、プリAMPで10倍強増幅すれば良いわけです。 またパワーAMPの入力感度か0.1VならプリAMPはいらないことになります。
なお、これらの計算は対称にクリップした時のもので、非対称にクリップさせた時はもう少し少ない増幅率でもOKです。  但しプリAMPでもパワーAMPでも対称にクリップする様に設計するのが普通です。

少し話しが横道にそれてしまいました。


調整
FETの回路が出来ましたら、基板が裸のままで良いですから、電源や入力端子を仮付けして調整および動作確認をします。 INから1KHz位の正弦波の信号を入れ、出力の波形が上下対称にクリップする様にソース抵抗を調整します、オシロまたはパソコンオシロで行って下さい。 対称にならない時は、それに近い最良点で固定します。 この部分を上下対称にクリップさせる理由は、この段では歪ませなくても良いからで、歪みは真空管の所で作ります。
FET増幅回路の調整が終わりましたら、次に真空管回路を製作します、真空管回路は調整の必要はありませんから、ケースに組んで、全体を完成させます。 配線間違いがないか何度も確認してください。

動作確認
完成しましたら、正常に動くかどうか確認します。
はじめに本機とギターアンプを接続します、エフェクターのLEVEL VRとDIST VRは適当な位置に回しておきます、ギターで音を出しながら各つまみが正常に機能しているか確認します。

オシロスコープと発振機またはパソコンオシロ アダプターを使う場合
エフェクターのLEVEL VRは最大にDIST VRは中間にセットします、INに1KHz位の正弦波の出るもの(発振器でも信号を録音したテープでもOK)を接続します、OUT側にはパソコンオシロを接続します。 本機の電源を入れます。 INからの信号を少しずつ上げて行き、出カ信号の上下どちらかがクリップするか、または上下対象にクリップするまで入力信号を上げます、この時DIST VRを回して上下どちら側でも波形がクリップするか確認します。
DIST VRを回した時に波形が左右対称には変化せず、どちらかに偏るかも知れませんがそれでOKです、どうしてもVRの変化具合を対称にしたいと言う場合は、VRの前に抵抗を付けて微調整してください。

本機の入力ジャックはプラグを刺さないときはアースにショートされています、入力を開放にしても発振しないことを確認してください。

ノイズ確認
今度は入力プラグを外します、この時入力ジャック内部ではホット側がアースに接続されますから、入力ショートの状態になります。 ショートにならないジャックの場合は、端子をアースさせるか、ショートプラグを差し込んでください。エフェクターのLEVEL VRは最大、DIST VRは中間にします。
パワーAMP(ギターAMP)のLEVEL VRは最小にしてからエフェクターを接続します、次にAMPの電源を入れLEVEL  VRを少しずつ上げて行きエフェクターからノイズが出ていないことを確認します。僅かにサーと言う位であればOKです。 ミリボルト メーターの測定値では0.5mV以下にしたいところです。

AMPが出来上がったらそれで完成ではありません。貴方好みの音に仕上げるには調整が必要です、増幅率やコンデンサーの容量を変更したり真空管のメーカーを変えるのも良いかもしれません。

ザー ノイズがうるさい位大きいと言う場合はサービスノートの頁を参照してください。


今回は真空管を極端に低い電圧で使うので、遊びのつもりでどれ位の電圧まで動作するのか調べたところ、2Vでも動作していました、下のオシロの写真が電源電圧2Vのときのクリップ波形です。(12AU7 増幅率 3倍  電源電圧は2Vですが、ヒーター電圧は12Vです) こんな電圧で動作していても使い道は無いと思いますが・・・・・   (上下対称にクリップしていると言うことは、上下どちら側にもクリップさせることができると言うことです。)





12AU7にシールドケースを使いましたがこれは衝撃等で真空管が抜け落ちない様にする為で、放熱の面からはシールドケースはないほうが良いでしよう、放熱用の穴もケースの上面と裏蓋にあけてありますが少し大きめのものにしてください。
写真に茶色の四角いコンデンサーの様なものが写っていますが、これは進工業の金属皮膜抵抗です、この抵抗が良いから使ったわけではなく、持っていたから使っただけでカーボン抵抗で十分です。


写真拡大と実体配線図

アースは真空管ソケットのセンターピンの所から入出力ジャックの所へとアース母線を張り、このジャックの所でシャシーにアースします、入力と出力が接近しないように部品配置や配線をしてください、また真空管のソケットは接触不良をおこさない為にもできるだけ新品を使用してください。
(2005/08/10)

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